男も女も魅了する艶やかな雰囲気をもつ眉目秀麗な青年、雨夜鏡(あまみやあきら)。
その誰もが欲しがる鏡の心は、快楽を追い続ける美子ではなく、
逢うことの出来ないあの人で占められていた。
決して叶う事のない背徳の想い……。
愛に飢え、渇き冷めきった鏡にとって、抱く相手など誰でもよかった。
その見境いのなさに眉をひそめる美子の友人・要は、
鏡の軽薄な言葉に必要以上に感情的な反応を示した。
それは、本気で他人と交わることのない孤高の存在に出逢ったことで、
要の内部に変化が起きた証だった。
鏡に関
...すべて読むするすべてのことに苛立つ要は、
不安を消し去ろうと恋人にすがりつく。
だが、その思いを裏切る恋人の態度に絶望した要は、
雨の中をあてど無く彷徨った。
そして出逢ったのは、鏡だった……。
浅葱色のメモリー。仲睦まじく遊ぶ姉弟――
無垢だったあの時代のままいられたらと、鏡は何度思っただろう。
渇ききった鏡の心がいつも求めているのは、
血の繋がりをもつ「姉」。
玲央奈との激しい情事の最中も、鏡の感覚は冷たく冴え、
意識は姉と心を通わせた甘美の思い出へ閉じこもっていった。
恋人に裏切られ、一夜限りと鏡に身をまかせた要は、
自分の中で孵化していく鏡への狂おしい想いを抱きながら、
通じる事のない電話を何度も掛け続けるのだった。
堪えきれずに鏡の部屋を訪ねる要。
ようやく鏡に出逢えた彼女は、うわずる声でその想いを吐き出すが、
鏡の表情は凍りついたまま。
……心は要らない。許されるなら、ただ……抱いて---。
それが要に残された、たった一つの道だった。